ライアーピース



歩夢は私の返事に顔を輝かせると、
私の左手をそっと持ち上げた。


ポケットから指輪を出すと、
私の薬指にそっとはめる。


その指輪はあの夏祭りの日、
輝きを失ったあの指輪だった。


「新しいの、今度買いに行こう」


「う、うん・・・でも私―」


「いいんだ。分かってる。
 束縛もしないし、若葉の行動に
 いちいち文句を言ったり
 怒ったりもしない。若葉は自由にしていい」


「歩夢はそれで、いいの?」


「ん?」


「偽物の愛情でいいだなんて、
 本当にそう思ってるの?」


歩夢はしばらく私の目を
見つめたまま黙り込んだ。


そうして瞼を閉じる。


「それでもいいから、
 俺は若葉と一緒にいたいんだ」


私は救いようのない愚かで情けない女だ。


どっちの幸せも掴もうとしているんだから。


「若葉は、それでいい?」


「私は・・・私は・・・」


そっと薬指を眺めた。


一度深呼吸をして、
きゅっと手を握りしめた。


「分かった。歩夢と一緒にいる」


「本当か?・・・良かった」


歩夢はこの時初めて、
あの懐かしい顔で笑った。


「でも私・・・」


「今日、迎えに行く。
 それまでは、佐々木と一緒にいなよ」


「・・・本当にいいの?」


「若葉がそれをつけていてくれるなら、
 俺は構わないよ」


「歩夢」


「好きだよ、若葉。
 2度目のプロポーズ、
 受けてくれてありがとう」


歩夢はそう言うと、
私を大学まで送ってくれた。


大学について歩夢とわかれる。


空を見あげると、
雲一つない晴天が視界を覆っていた。



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