ライアーピース



歩夢は神妙な顔つきで私を見つめていた。


「ど、どうしたの・・・?」


私はぎこちなくそう言った。


「それ・・・」


ふと、歩夢の手に視線がいった。


左手の薬指には、いつか
二人で選んだ婚約指輪がはめてあった。


歩夢は自分の手を見つめて
小さく笑うと、私の目を見た。


「やっぱり俺、諦めきれなかった」


「え?」


「この1週間、若葉のことを
 考えない日はなかった」


私は咄嗟に俯いた。


歩夢がこちらに近づいてくる。


彼の息遣いが聞こえる距離になると、
彼はすっと息を吸った。


「若葉が佐々木のこと好きなの、
 知ってるけど・・・
 それでも俺は、
 若葉とずっと一緒にいたい」


「歩夢・・・」


「もう佐々木に会っても
 何をしても構わない。
 だから、結婚だけは
 俺としてくれないか?」


「えっ・・・」


歩夢は真剣な顔を見せた。


本気なんだ。


歩夢はこの1週間でそういう
決心をしてここまでやってきたんだ。


「結婚してくれ。
 偽物の愛情でもいいから、
 俺と一緒にいてほしい」


また、選択を間違うかもしれない。


どうすればいい?


そこまで言われたら私、断れないよ・・・。


「はい」


ああ。私はなんて愚かなんだろう。


結局いつも、
楽な道を必死で探しているんだ。


それがどんなに、
周りの人を巻き込んでしまったとしても。


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