ライアーピース
「動いた・・・」
「楓っていうの」
愛おしげに私がお腹を撫でると、
ふいに陸の手とぶつかる。
私の手は、熱を帯びていた。
陸ははっとしたような顔を見せると、
ポロポロ泣き出した。
「陸・・・」
「俺、何か大事なこと
忘れてる気がする」
陸は徐に立ちあがって涙を拭った。
「陸~!またこんなとこにいたん?
心配するやんか」
懐かしい声がした。
振り返ると、大人びた唯がいた。
「唯」
「若葉ちゃんや。久しぶりやね」
「そうだね」
唯は高校と違って少し
表情が穏やかになっていた。
「何?子ども産まれるん?」
「そう」
「へえ~。幸せそう」
「幸せだよ」
唯は私を陸から離れさせると、
小さい声で言った。
「うちな?結婚するんよ、陸と」
「陸と?」
「そう。結婚式。
旦那さんと一緒に来てくれんかなぁ。
住所教えてよ。ハガキ出すから」
「・・・分かった。
何か書くものある?」
唯はカバンからメモ帳とペンを出した。
私はスラスラと住所を書いていく。
唯は満足そうにニコニコと笑うと、
私に手を振った。
「じゃあうちらはこれで」
「うん。気を付けて」
一人公園に取り残された私の頬には、
何故か涙が零れ落ちた。