ライアーピース



私の声に、
陸がびくっと体を震わせた。


ふいっと顔を上げる。


陸のその双眸に光はなかった。


「陸、どうしたの?
 こんなところで」


「・・・・若葉?」


「えっ、すごい。
 私の名前覚えてるの?」


陸は私の顔を見ると、
緩やかに微笑んだ。


「ああ。今日は、調子が良いんだ」


そういってまた、
遊びまわる子供たちに視線を向ける。


その姿が愁いを帯びていて気になった。


「何してたの?」


「・・・たまに、
 来るんだ。ここ」


「へえ。家、ここから近いの?」


「ああ。唯が
 前の家から引っ越そうって」


「そっか」


私が短く返事をすると、
陸はまた私を見た。


いや、私の抱き上げていた楓を見ていた。



「子供?」


「うん。楓、覚えてる?
 ママの・・・友達だよ~」


まだお腹の中だったから覚えてないか。


でも、楓は陸をじっと見つめると
ニコニコ笑った。


そんな楓を見て、
陸も少しだけ微笑んだ。




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