ライアーピース



「歩夢、行ってらっしゃい」


「行ってくるよ。
 若葉、楓のことよろしくな?」


「わかってるよ。ほら、楓。
 パパに行ってらっしゃいしようね」


まだ小さい楓の手を優しく振ってみせる。


楓はニコニコ笑っていた。


「パパ、頑張ってくるからな!
 じゃ、行ってきます」


バタン、とドアが閉じた瞬間、
楓が泣きはじめた。


まるで歩夢がいなくて
寂しいと言うかのように。


「よしよーし。ママとお散歩に行こうね」


私があやしてあげると、
楓はぐずるのを止めた。


洗濯物を干して部屋に掃除機をかける。


哺乳瓶にミルクを入れて出かけるために
服を着替えて楓を抱っこした。


「さあ、ママとお外に行こうね?」


家にカギをかけて外に出ると、
空は晴れ模様だった。


今ごろ、歩夢は飛行機の中かなぁ。


真上、通ったりしないのかなぁ。


なんてことを考えながら公園に辿り着く。


ここはあの時陸に会った公園―。


公園には沢山の子どもを連れた
ママさんでいっぱいだった。


その中にひと際目立つ姿が見えた。


あの日と同じように栗色の髪の毛をした男が一人、
ブランコの柵に腰かけていた。


「陸・・・?」


ぼーっとしたような表情で
子供たちを眺める陸。


そんな陸が妙に気になって、
私は声をかけた。



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