ライアーピース



「脳挫傷から来る、
 遷延性意識障害の可能性が大きいです」


「それは、つまり・・・?」


歩夢が呟くと、
お医者さんが口を開いた。


「いわゆる、植物状態です」


「し、植物・・・?えっ?」


私は顔をあげてお医者さんを見つめた。


先生は真っすぐ私を見つめて言った。


「自発呼吸が出来て脳波も見られます。
 眼球が動いたり何か
 言葉を発することもありますが、
 ほとんど意思疎通は不可能です」


「陸は・・・陸は生きてるんですか?」


先生は目を伏せてそれから陸を見た。


「3か月、様子をみましょう。
 3か月以上この状態が続きますと、
 遷延性意識障害と診断させていただきます」


先生と看護師さんが病室を出て行くと、
私は陸の頬を触ろうとして、止めた。


いけない。


歩夢がいるのにこんなこと・・・。


「若葉。いいよ」


私の気持ちを察したように、
歩夢がそっと声をかけた。


私は陸の頬にゆっくりと触れた。


「陸、陸・・・」


陸の名前を呼んでも、
答えは返ってこない。


穏やかに眠る陸の心臓が
トクン、トクン、と微かに動いている。


「ねえ、歩夢」


「ん?」


「陸、両親も親戚もいないの。
 唯とも離婚して、ずっと一人なの」


「うん」


「だから・・・っ」


「わかってるよ」


歩夢は私の肩に手を置いて、
それから優しく言った。


「俺も出来る限りここに来る。
 若葉も、来てやって?」


「歩夢・・・ありがとう」


「おう。今日はもう帰ろう。
 疲れただろ?」


「うん」


私は歩夢に支えられて
ゆっくりと立ちあがった。


そうして名残惜しくも、
病院を出た。



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