ライアーピース



「車で・・・?」


「そうだ。一人で車を
 運転してたらしい。
 ブレーキとアクセルを
 踏み間違えたんだろう」



移動中、歩夢は
そう私に説明した。


私はきゅっときつく拳を握りしめる。


その手は震えていた。


陸、どうして事故なんか・・・。


「トラックと衝突したみたいだ。
 会社のすぐ真ん前の交差点だった」


「だから歩夢が・・・?」


「ああ。一応知り合いだからな。
 それに若葉が・・・」


「えっ?」


「若葉の大事な人だろう」


歩夢の顔を見ると、
歩夢は真っすぐ見つめながら笑った。


「大丈夫だ。佐々木は大丈夫。
 だからしっかりしろ、若葉」


「う、うん・・・」


「でもどうしてそんな事故なんか・・・」


歩夢の言葉を頭の中で繰り返す。





―ブレーキとアクセルを踏み間違えたんだろう―




「・・・忘れ、た・・・?」





「何?」


「陸、きっと、忘れたんだ・・・」


「忘れたって・・・
 普通の日常生活には支障ないって・・・」


「そうだけど、もしかしたら陸、
 病気が進行して―」


そんな話をしているうちに、
車は陸の運ばれた病院に到着した。


大きな総合病院なだけあって、
人が沢山いた。


私は歩夢に手を引かれて
陸のいる病室へ向かった。


扉を開けて中に入ると、
お医者さんと看護師さんが
私たちの方を振り返って小さく会釈をした。


「り、く・・・?」


ベッドに横になっている陸は、
沢山の機械に囲まれて眠っていた。


ゆっくりと陸に近づくと、
あの日あげた香水の匂いが鼻を擽った。


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