ライアーピース



それから半年が過ぎた。


楓を保育園へ預けて
パートに向かう日々が続いた。


歩夢との離婚について、
親に分かってもらうにはもう少し時間がかかりそう。


それでも母親はアパートに訪ねて来ては
楓の面倒を見てくれていた。


「ちょっとー、若葉何これ~」


「えー?何?」


「アンタ、カップ麺ばっかりじゃない。
 ちゃんとご飯食べないとダメでしょう?」


「うるさいなあ。楓にはちゃんと
 食べさせてるんだからいいでしょ?
 私のご飯くらい手抜きしたって」


「そうだけど、それじゃ体持たないわよ?」


「わかってます」


親の小言はうんざりするけど、
私が大口叩けるような立場じゃないから
適当に受け流すしかなかった。


「じゃあ、行ってきます」


「はいはい。気を付けるんだよ」


母と楓を家に残して、私は外に出た。


このアパートなら、
慈愛の家も、歩夢のマンションも遠い。


私は本当に二人と断ち切って、
一人で楓を育てて生きていくんだ。


そう決めてから半年、
私は今日もパートへ向かった。
自転車に乗って仕事先まで走る。


交差点の横断歩道沿いで、
私はふと向かい側の道を見た。


「え・・・?」


陸によく似た人がいた。


身長も髪型も、何もかもそっくりな男の人。


思わず声をかけそうになって、止めた。


忘れなくちゃ。まだまだ歩夢も陸も、
私の頭に残って離れない。


信号が青に変わると、私は自転車を走らせた。


その男の人と横断歩道上ですれ違う。


「あっ・・・」


すれ違った瞬間、
微かに懐かしい匂いが鼻をかすめた。


それは私が陸に上げた香水の匂いだった。



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