ライアーピース



小さなアパートに辿り着くと、
私たちは車を降りた。


大きな荷物を中島が抱えて、
私たちはそのアパートの角部屋に入る。


中はさほど広くはなかったけれど、
家具付きの家賃も安いところだから不満はない。


楓と二人で暮らしていくのには十分だった。


荷ほどきを手伝ってもらった後、
私は由紀乃と中島と場所を移動してカフェに入った。


「で、なんで急に引っ越し?
 ・・・解せないんだけど」


ブラック珈琲を口にする中島が
鋭い一言を放つ。


「なんかね、気持ちの整理がつかなくて」


「お前は本当、
 高校時代から思ってたけど馬鹿だよな」


「ちょっと、大ちゃん。
 若葉をいじめないでよ!」


「別にいじめたつもりは・・・」


中島はたじろぐとまた珈琲に口をつけて黙った。


本当、由紀乃には頭上がらないんだなぁ。中島も。


私がくすくすと笑うと、
中島はまた冷めた瞳を私に向けた。


「まあ、色々あったんだろうけど、
 せめてあいつが戻ってきてからでも良かったんじゃない?」


「そうだけど・・・でも、
 先延ばしにしたらまたダメになっちゃう気がしてさ」


「ふうん。何でもいいけど、
 そろそろ自分の口で伝えたら?
 ひっきりなしに俺のとこに
 電話かかってくるんだけど」


中島は言いながらケータイを取り出して
私に差し出した。


今でもケータイはぶるぶると
振動して震える。発信源は“歩夢”。


「ごめん。でも、まだ歩夢には
 面と向かって話せないもの」


「はあ。由紀乃の頼みじゃなかったら
 放っておいたのに。こんなバカな女」


「大ちゃん!」


「わかった、わかったって」




この二人を見ていると、
自然と笑みがこぼれる。


私もこんな二人でいたかったな。


歩夢と、二人で・・・。


私はあれから、歩夢の家を出た。


単身赴任中の歩夢から何度も
電話やメールがあったけど、
私はそれに応えることはなかった。


置いてきた手紙を歩夢が読む頃には、
きっともう、私は新しい道を
歩み始めているだろうな。


私が歩夢と別れることを決めたのは、
やっぱりあの日のことがあったからなんだろうな。


心がまだまだ幼い私には、
これしか方法が思い浮かばなかった。



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