ライアーピース



知ってるって何?


唯も由紀乃も、
びっくりしたように顔を合わせた。


陸はまた目をきつく閉じて黙り込むと、
しばらくして目を開いた。


「し、知ってるって・・・陸」


「あの雨の日、
 ふいに記憶が戻ったんだ」


あの日って・・・。
確か陸が突然姿を消した日だ。


陸はふっと息をつくと、私を見つめた。


「俺、確かに中学3年までは
 唯と付き合ってた。だけど、
 病気が悪化して唯が傷ついてしまうことが多くなった。

 だから距離を置こうとして引っ越してきたんだ」


唯の方を見ると、陸は続けて言った。


「中3の秋に転校して、
 若葉が俺の彼女だって
 嘘をついたことも思い出したんだ」


「陸・・・最初から知って・・・?」


「そう。俺は最初から気づいてた。
 お前が彼女のフリをしたのも。
 だけどあえて追求しなかった」


「どうして・・・」


私が陸を見つめると、
陸も唯から視線をそらして私を見た。


「お前から打ち明けてくるのを待ってたんだ。
 でもお前、必死に嘘を貫き通すんだもん。
 実は全部知ってました、
 なんて言ったら
 お前を傷つけてしまいそうで怖かったんだ」


陸は少し顔を曇らせて私に笑いかけた。


「頭打って記憶を完全に失ってから
 あの日まで、ずっと苦しかった。
 お前のこと、思い出せなくて、
 自分が情けなくて辛かった。
 でもあの雨の日、全部思い出した。

 事故にあって記憶を失ってしまうのも、
 唯とのことも、お前の嘘も全部」


私はいたたまれなくて、
すぐにでもこの部屋から
飛び出したい気持ちでいっぱいだった。


恥ずかしい。すごく惨めじゃん、私。


どうして陸は、私の嘘に
付き合ってくれていたんだろう。


もっと早くに知っていれば、
こんなに傷付かずに済んだのかもしれない。


「全部分かった上で、
 俺はお前らの前から
 姿を消そうと思ったんだ」


「え・・・?」


「陸・・・」


私と唯は、そろって
陸のほうへと顔をあげた。



< 97 / 231 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop