ライアーピース



再び沈黙が走る。
すると由紀乃が初めて口を開いた。


「どうして陸くんは
 いなくなろうとしたの?」


「それは・・・。
 俺がいないほうが、
 二人にとってはいいんじゃないかって思った。
 俺のことは忘れて
 誰かいい人と巡り合えればって思ったんだ」


陸は拳を握って続けた。


「でも、出来なかった」


陸は、陸はね、優しいんだよ。


誰かが傷つくのなら、
自分が傷つけばいいと思う、そんな人なんだよ。


知ってるから。知ってるからこそ、
私はとんでもない嘘をついてしまったと後悔した。


私の嘘が、陸を傷つけた。


「唯にも若葉にも、
 本当のことを言おうと思った。
 唯は記憶を失くした俺のそばに
 いつもいて、俺を助けてくれた。
 若葉は大事な幼馴染だ。
 大事な二人には、本当のことを
 言うべきだとここ数日考えていたんだ。
 だから、戻ってきた」


「じゃあ陸、うちのこと・・・」


「ああ。唯と知り合えてよかったと
 思うくらい、唯が好きだったよ」


唯はその言葉を聞いて
少しだけ、表情が明るくなった。


そんな唯を見つめる陸は、
首を横に振った。


「でも、気付いたんだ。
 俺、若葉のこと、好きになっていたんだ」


「えっ」


「若葉の嘘に話を合わせて付き合ううちに、
 若葉のことが好きになった」


「陸・・・」


「俺は若葉が好きだ」


その言葉に、
私は嬉しさを隠すのに必死だった。


陸が、陸が私を好きになってくれた。


陸と、一緒にいられる。
陸の隣を歩ける。


そう思うと嬉しくてたまらなかった。


なのに・・・。






「好きだから、若葉とは付き合えない」





「えっ・・・」




「俺はそのうち、またお前の前から
 いなくなる。そう決めたんだ」








雨が降ってきた。


ざあざあと、激しい雨が。
嵐の前触れのように。




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