オトナの恋は礼儀知らず
 ひとすじの今度は春の訪れではなく、希望の光が見えた。
 ………ほんの一瞬だけ。

「していたら結婚しましょう。」

 ………待って。飛躍してるわ。
 逃げ出さずに責任を取るつもりなのは立派だと認めるわ。

 だからって1回したくらいで……。
 いまどき高校生の方がよっぽど………。

「友恵さんとの子かぁ。
 可愛いでしょうね。」

 ……………………………。

 冷静に考えるのよ。冷静によ。

『友恵さんとの子』………大丈夫かしら。

 赤ちゃんはコウノトリが運んでくると思っている頭がファンタジーな人なのかしら。

「子どもができるようなことしてないですよね?」

「しましたよ。」

 嬉しそうに断言されるとショックが3月の雪崩よりもひどく押し寄せてくる。

「そういうことではなくて。
 避妊しましたよね?」

「いえ。」

「はい?」

 頭痛を忘れさせるほどの衝撃を受けずに済むのなら、頭痛にずっと見舞われていたって構わない。

 誰かお願いだから助けて。

 これ以上、桜川さんと会話……というより意思の疎通が図れる気がしない。

「ですから連絡先は交換しましょう?
『妊娠』していたら結婚しましょうね。」

 桜川さんの満面の笑みが受け入れ難くて目眩がした。



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