オトナの恋は礼儀知らず
18.このまま一緒に
勢いよく起き上がった桜川さんの体が露わになって、目のやり場に困る。
すぐ近くにある筋張った腕に視線を集中させて余計なものを視界に入れないように、余計な思考を排除することに努めた。
男の人の体を見て色気を感じるなんて、桜川さんに欲情し過ぎだ。
ついさっきしたばかりだというのに……。
友恵の気持ちを知る由もない桜川さんはそのまま覆い被さるように友恵を抱きしめた。
「いいのですね?
僕が会いたい時に来ても……。」
どういう表情をしているのか顔が見えなくて読み取れない。
ただ、いたく喜んでいるのだけは伝わってくる。
「えぇ。あまり無理はしないでくださいね。
仕事もあるんですから。」
それは自分にも釘を刺すための台詞。
桜川さん一色にならないように。
「それなら…………。
明日は予定がありますか?」
「明日ですか?
家の掃除や食材の買い出しなんかを…。」
急に黙ってしまった桜川さんに、どうしたんだろう。寝てしまったのかしら。と、覆い被さっている桜川さんの下から抜け出そうと体を押してもビクともしなかった。
「逃げないで。
こうしているのは嫌ですか?」
「起きて……。
寝てるのかと思って。」
「寝てるわけないです」に続けて口ごもりながら「今日泊まってはダメですか?」と言われた。
心配が現実になった気がする。
求め過ぎて身の破滅に陥りかねない。
私だって一緒にいたい。
だけど仕事に支障をきたしては社会人として失格だ。
「仕事ありますよね?」
「………………。」
また無言の時間。
もしかして明日休むからと駄々をこねたいけど、かっこつかないから黙っているとか?
「次のお休みの日に泊まりに来てください。
待ってますから。」
「違うんです。
ちゃんと休みは家で過ごすつもりでした。」
あぁ。また何を言っているのか分からなくなってきた。
違うって何が違うのか分からない。
休みは家で過ごすということは月曜は来れないってことかしら。
「明日……というか火曜は友恵さんがお休みだと聞いて………。
休みを取ったんです。」
「………………はい?」
どういうこと?
次の約束をする電話で桜川さんに明日休むからって言われたかしら………。
今日会えたのはたまたまで……。
「火曜なら会えるかと思って休みを取ったんです。
それを言い出せなくて……。」
言ってくれればいいのに。
そこまで思ってふと気付く。
きっと前の電話の時に「火曜は会えますか?」と聞かれれば理由をつけて断っていたかもしれない。
自分の身勝手さに嫌気が差す。
「会えなくても友恵さんが休みの日に友恵さんのことを思いながら家でのんびり過ごしたら幸せかなと思いまして。
ちょっと気持ち悪いですね。
自分で話していて気持ち悪いです。」
最後の方は消えかけた声で話す桜川さんは自分に正直に生きているんだと思う。
会えない恋人に想いを馳せて過ごす。
私にはそういう情熱をどこかに忘れてきている気がする。
それともあるのに見ようとしていないだけなのかもしれない。
「だからこのままずっと寝ても覚めても友恵さんを……。」
こんなに早く世捨て人になる日が来るなんて。
「ダメですか?」
そう言いながら手は熱を持って体の線をなぞり、囁かれた耳は甘く痺れていく。
返事は絡め取られて吐息に変わった。
「このままずっと………。」
すぐ近くにある筋張った腕に視線を集中させて余計なものを視界に入れないように、余計な思考を排除することに努めた。
男の人の体を見て色気を感じるなんて、桜川さんに欲情し過ぎだ。
ついさっきしたばかりだというのに……。
友恵の気持ちを知る由もない桜川さんはそのまま覆い被さるように友恵を抱きしめた。
「いいのですね?
僕が会いたい時に来ても……。」
どういう表情をしているのか顔が見えなくて読み取れない。
ただ、いたく喜んでいるのだけは伝わってくる。
「えぇ。あまり無理はしないでくださいね。
仕事もあるんですから。」
それは自分にも釘を刺すための台詞。
桜川さん一色にならないように。
「それなら…………。
明日は予定がありますか?」
「明日ですか?
家の掃除や食材の買い出しなんかを…。」
急に黙ってしまった桜川さんに、どうしたんだろう。寝てしまったのかしら。と、覆い被さっている桜川さんの下から抜け出そうと体を押してもビクともしなかった。
「逃げないで。
こうしているのは嫌ですか?」
「起きて……。
寝てるのかと思って。」
「寝てるわけないです」に続けて口ごもりながら「今日泊まってはダメですか?」と言われた。
心配が現実になった気がする。
求め過ぎて身の破滅に陥りかねない。
私だって一緒にいたい。
だけど仕事に支障をきたしては社会人として失格だ。
「仕事ありますよね?」
「………………。」
また無言の時間。
もしかして明日休むからと駄々をこねたいけど、かっこつかないから黙っているとか?
「次のお休みの日に泊まりに来てください。
待ってますから。」
「違うんです。
ちゃんと休みは家で過ごすつもりでした。」
あぁ。また何を言っているのか分からなくなってきた。
違うって何が違うのか分からない。
休みは家で過ごすということは月曜は来れないってことかしら。
「明日……というか火曜は友恵さんがお休みだと聞いて………。
休みを取ったんです。」
「………………はい?」
どういうこと?
次の約束をする電話で桜川さんに明日休むからって言われたかしら………。
今日会えたのはたまたまで……。
「火曜なら会えるかと思って休みを取ったんです。
それを言い出せなくて……。」
言ってくれればいいのに。
そこまで思ってふと気付く。
きっと前の電話の時に「火曜は会えますか?」と聞かれれば理由をつけて断っていたかもしれない。
自分の身勝手さに嫌気が差す。
「会えなくても友恵さんが休みの日に友恵さんのことを思いながら家でのんびり過ごしたら幸せかなと思いまして。
ちょっと気持ち悪いですね。
自分で話していて気持ち悪いです。」
最後の方は消えかけた声で話す桜川さんは自分に正直に生きているんだと思う。
会えない恋人に想いを馳せて過ごす。
私にはそういう情熱をどこかに忘れてきている気がする。
それともあるのに見ようとしていないだけなのかもしれない。
「だからこのままずっと寝ても覚めても友恵さんを……。」
こんなに早く世捨て人になる日が来るなんて。
「ダメですか?」
そう言いながら手は熱を持って体の線をなぞり、囁かれた耳は甘く痺れていく。
返事は絡め取られて吐息に変わった。
「このままずっと………。」