オトナの恋は礼儀知らず
「今の私でも愛してるって言えますか?」

 嗚咽を漏らしていた声が落ち着くと、今度は友恵からこぼれた弱音。
 浩一さんを困らせたいわけじゃない。

 けれど不安だった。
 男の人は年を取っても変化は少ないみたいだ。
 だからきっと若い子がよくなるんだ。
 浩一さんだって………きっと……。

「愛していますよ。友恵さん。」

 顔を上げた浩一さんが両手で頬を包んでキスをした。
 優しく優しくキスをして「愛しています。愛してる」と囁いた。

 何、変なことを聞いてるんだと言うように軽く頭突きされて、頭を重ねた浩一さんにもう一度聞いた。

「もう女じゃないとは思わないんですか?」

 自分で言って傷つく質問だった。

 どうして人間の構造はそうなっているんだろう。
 神様さえも恨みたい気持ちだった。

「何を馬鹿なことを。
 どんな友恵さんでも大切ですし、愛しています。
 それに……。
 友恵さんは呆れると思いますけど………いや、怒ると思いますけど……。」

「もうなんだっていいので言ってください。」

 言いにくそうに手の中にある友恵の耳や髪を握ったり離したりして、もう一度頭をくっつけた。

 そのまま口ごもりながら続きを話した。

「診察してくれた先生に生理が来なくなっても……その…できますか?と聞いたんです。
 誤解しないでください。
 友恵さんとはそれだけじゃなんです。
 側にいてもらえるだけでいいんです。
 ただ……その……………。」

「先生は、なんて?」

「大丈夫って。
 もし大丈夫じゃなかったら困っていました。
 僕はいつでも友恵さんに欲情していますから。
 だから友恵さんは僕のただ1人の女性で………。
 その……ごめんなさい。
 最悪な答えですよね。」

 まったくもう!それだけなんでしょ?って言ってやりたい。
 でも…嬉しいなんてたぶん私も変なんだ。

「若い子の方がいいんじゃないですか?」

「何を言って!
 だから友恵さんじゃなきゃダメなんです。
 僕は何よりも誰よりも友恵さんが僕の全てだから。」

 またキスをする浩一さんが「やっと友恵さんに戻ったみたいで嬉しいです」とつぶやいた。

 腕の注射の痕がたぶん治療の痕だ。
 ここ最近のイライラが消えていた。

 きっとイライラしていた時は目も当てられぬほどに浩一さんに苛立ちをぶつけていたと思う。

「私の方こそごめんなさい。」

 しがみつくとやっと涙が出てきた。
 背中を撫でる手が大きくて温かくて涙は後から後から流れた。


 



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