恋愛ノスタルジー
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約八ヶ月前。

「峯岸彩と申します」

見合いの席となった都内の老舗料理店の一室で、彩は小さな声で挨拶をした。

畳の上に手をハの字に置き、優雅にお辞儀をする様は、自然と育ちの良さが出ていて微塵も嫌味を感じない。

「彩さん、お顔を上げてください」

「……失礼いたします」

ゆっくりと身体を起こして俺を見た彩は、フワリと微笑んだ。

「はじめまして。夢川さん」

この言葉に一抹の寂しさを覚えたのを今もしっかりと覚えている。

……彩はやっぱり覚えていなかった。

いや、覚えていなくても仕方がない。

むしろ覚えている俺の方が特異なのだと思う。

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《約二十年前》


「あなたもパパのお誕生日パーティーに来たの?」

「……うん」

「大変ね、まだ子供なのに」

茶色の長い髪をフワフワさせた女の子は、俺を見上げてそう言うと大きな溜め息をついた。

自分より五つも年下だという女の子の大人びた口調に、俺は一瞬ポカンとしてしまった。

「パパはね、いつも忙しいの。あなたのパパも?」

俺にそう質問しつつ、女の子は持っていた人形に視線を移しその髪を撫でた。

黒目がちの瞳と長い睫毛が印象的な女の子は、多分自分が人形にも負けないほど可愛いことに気付いていない。
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