恋愛ノスタルジー
ドアに手をかけたままの私に、なんの気なく振り返った圭吾さんが気付いた。

一瞬、ほんの一瞬だけ圭吾さんは眉を上げたけど、電話の相手におやすみを言うと小さく咳払いをして私に声をかけた。

「起きてたのか」

「……はい。あの、お帰りなさい」

「……」

圭吾さんは私を一瞥すると、なにも言わずにリビングへと消えた。

***

「昨夜の事だが」

テーブルの直ぐ横の窓から降り注ぐ朝の日差しが、圭吾さんのブラウンの髪を柔らかく照らしている。

彼は珍しく朝食を食べながら、キッチンに立つ私に声をかけた。

「はい」

私が返事をするとお箸を戻し、再び口を開く。

「君も自由にすればいい。僕たちは親同士が決めた政略結婚で、この結婚は仕事みたいなものだ」

「……はい?」

結婚が仕事で、私は何を自由にすればいいのかわからず、首をかしげて圭吾さんを見つめた。

そんな私をうんざりした眼差しで捉えると、彼は少し早口で続けた。

「つまり、自由に恋愛すればいいと言ってるんだ。君はまだ25歳だし、さすがにさほど恋愛経験もないままなのは気の毒だ。それに結婚はするけどあくまで家のためだから割り切ればいい」

「……はぁ……」
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