恋愛ノスタルジー
加えて飾らない凌央さんの人柄に惹かれたみたいで、圭吾さんは画材の開発から販売までを手掛ける彼の話を熱心に聞き入っていた。

そんな中、明日から一ヶ月間を海外の島で過ごすと話した圭吾さんに、凌央さんがこう提案したのだった。

「新婚旅行を一ヶ月間かぁ!そりゃいい。けど少し長いな。あ、そうだ、車に新作の画材積んでるんだ。夢川さん、かさ張らないから旅行に持っていって描いてみたらどうかな」

小じんまりしたスケッチブックとペンのセットは確かにスーツケースの中でもかさ張らなかった。

でも……何を血迷ったのか圭吾さんは私をモデルにすると言い出し、私はといえばプライベートビーチを背にポーズを決めて座りっぱなし。

「……肩が凝っちゃった」

小さく呟いてバルコニーの椅子から立ち上がると私は部屋に入り、圭吾さんが置き去りにしたスケッチブックを見つめた。

……閉じちゃってるけど……見たらダメかな。

……見たいな。

……見ちゃえ。

いくら素人といえども器用な圭吾さんの事だ。

凌央さんには及ばずとも遠からずなんじゃ……。

ちょっとワクワクする。

そう思って表紙をめくった私は、思わず目を見開いて硬直した。

……確か三十分ほど前、圭吾さんは私に向かってこう言った。

「彩。榊君にせっかく紙とペンをもらったから描いてみることにする。そこの椅子に座ってモデルになってくれ」

……あの時の会話からして、これって私だよね。
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