恋愛ノスタルジー
私って……私って、圭吾さんにはこんな風に見えてるの?

……キリンも真っ青な程長い首から直接腕がニョキッと伸びているその姿は、もはや人間というよりは未確認生物。

……嘘ぉー……く、首から腕が……。

見てはいけないものを見てしまった気分でしばらく立ち尽くしていたけど、やがて私は身震いするとスケッチブックをパタンと閉じた。

そ……そうよ。人には向き不向き、得意不得意がある。

圭吾さんは眉目秀麗、頭脳明晰の敏腕社長。

画が凌央さんとは別の意味で凄かったとしても、他に素晴らしいところがいっぱい……。

「……彩」

「うわあっ!」

突然後ろから抱きすくめられ、心臓が止まりそうな程驚いた私は小さく叫んだ。

「……なあ、夕食までまだ時間がある。一緒に散歩に行かないか?」

「そ、そうですね、それがいいわ!そうしましょう!お風呂に入りましょう!」

良かった、勝手に見たのを叱られるのかと思って凄く焦っちゃった!

バクバクする心臓をさりげなく押さえながら振り向いて圭吾さんを見上げると、何故か彼はポカンとして私を見ていた。

「……どうしたんですか?」

「いや、その」

不思議そうに私が見つめていると、圭吾さんは照れたように視線をさ迷わせた。

……なに?!

「……風呂じゃなくて……散歩って言ったんだ」

「へっ?!」

え、でもさっき、バスルームに入って行ったよね?

順番にお風呂に入ろうって言ったんじゃないの?!
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