恋愛ノスタルジー
サァッと血の気が引く中、さっきの圭吾さんの言葉を思い出そうとするも、完全にお風呂に入る話だと思い込んだ私には散歩の『さ』の字も記憶にない。

「彩」

うろたえる私を前にして、圭吾さんの瞳が悪戯っぽく、そして妖しく瞬く。

「えっと、あの」

恥ずかしさのあまり後ずさる私の腕を、圭吾さんが素早く掴んだ。

この流れは……!

「ちょ、ちょっと待って圭吾さん。違うの、さっき圭吾さんがバスルームに入っていったから、てっきり順番にお風呂に入る話かと」

まさか、盗み見た画が下手すぎた為に驚いて話を聞いてなかったとは言えない。

焦る私に圭吾さんがニヤリと笑った。

「……散歩はもういい。そういや……長いフライトで疲れたよな。汗を流した方が」

つ、疲れたのはフライトじゃなくて画のモデルだったりするけど……!

「あ、の圭吾さん」

「……彩」

たちまちフワリと胸に抱かれる。

「圭……」

……ダメだ、私……。

圭吾さんの香りに包まれた私は、あまりの心地よさにクタリと彼に身を預けてしまった。

ああ。

本当に私は、心の底からこの人が好き。

「彩……」

「……じゃあ……お散歩……行きましょうか」

「……」

僅かな沈黙のあと、圭吾さんが諦めたようにクスリと笑った。

それから、低くて艶やかな声でこう囁く。

「……今回は散歩にしよう。まだまだ先は長いから」

「はい、圭吾さん」

そう。先は長い。

いく年月もずっと、私は貴方と生きていきたい。

いつか年を取ってこの恋を懐かしむ時も、そばには貴方にいてほしい。

「圭吾さん。大好き」

「俺も好きだよ」

愛してやまない彼の腕の中でゆっくりと眼を閉じると、私はその身体を抱き締めた。



    《番外編》その後のふたり
        ~end~
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