エリート医師のイジワルな溺甘療法


「いただきます」


五センチはありそうな分厚いステーキに、ナイフを入れる。

驚くほど肉を切る手ごたえがなく、口に入れればほろりと蕩ける様な柔らかさ。

こんなの今まで食べたことがない。感動しすぎて目に涙が滲んだ。


「うーん、おいしいです~っ」

「そうだな。俺も、この店に来て正解だ。ワインが飲めないのが、ちょっと残念だな。君は、本当に飲まなくて良かったのか? 遠慮しなくていいんだぞ」

「はい。遠慮していないんで、大丈夫です」


先生の食べる所作はとても上品で、いい家庭で育ったんだろうなと思う。

私は綺麗に食べられてるかな?


「これは、今度は、タクシーで来ないといけないな」


これって、私に向けて言ってくれたんだろうか。

それとも独り言?

“今度”は、別の人と来るんだろうか。

もしかしてまた私と?なんて期待しちゃうけれど。

こんな幸せなひとときは何回もあるものじゃなくて、今日が特別なんだろうな。

多分、二度とないのだ。


「瀬川さんは、家具が好きなのか?」

「大好きです。家具というか、お部屋のインテリアをコーディネートするのが好きなんです。色調を考えたり、小物を効果的に飾ったり。気持ちよく暮らせる空間を提案して、実際に家具を使う人が喜んでくれて、お店に来てお礼を言ってくれたりするんです。それがすごくうれしくて、幸せだなーって思います」


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