エリート医師のイジワルな溺甘療法
『リハビリは必ずするから、マンションで待っていてほしい』
まるでお願いするように、そう言うのだ。お願いしなくちゃいけないのは私の方なのに、これじゃ逆だ。
先生は疲れて帰って来ても、しっかりリハビリに付き合ってくれる。
前回は十時を回ってから帰宅してきたから、アパートに帰るのが十一時近くになってしまった。
これじゃ先生が大変過ぎるから、思い切って言ってみた。
『ご迷惑だから、先生が忙しい間は自宅で歩く練習をするし、リハビリルームに通います』と。
でも、先生は頑として首を縦に振らない。
『君の場合、ひとりで練習するのは危険だから止めてくれ。それに、君のことは、最後まで俺が全部面倒を見たいんだ。だから、ほかの奴に、君のことをゆだねたくない。本当は院長にも診せたくなかったんだぞ』
そんなことを真剣な瞳で言われたら、胸が苦しくなって、反論することができないじゃない。
先生の言葉ひとつで一喜一憂してしまうと、ピュアな十代の女の子みたいになる。
個人練習禁止なのは、私がどんくさいからで、転んで怪我を増やしてしまう可能性があるから。
けれど、私をほかの人に任せられないのは、どうしてなのかな。
そこまでの責任感を持ってるのは、ギブアンドテイクの相手だからかな。
それか、私が無類の怖がりだから心配なのかな。
期待しちゃいけないのに、もしかして……なんて、また夢を見てしまう。