あなたの心を❤️で満たして
今朝は何も言わず、彼は黙々と朝食を口に運んでいる。
豆腐の味噌汁と塩だけのおにぎりがあっという間になくなり、指先を伸ばした両手が重なり合う。


それを見るのも今日がラスト。
毎朝食べて貰えて嬉しかった。



「ありがとう」


ついお礼を言い、向かい側に座る人の視線とぶつかる。
ルックスだけで女心を虜に出来ると教授が言ったように、確かに魅力的な人だ。


「…ああ。いや」


そのルックスとは違い、言葉数の少ないのがギャップだった。


結局、彼と一度もまともに話せなかった。
後悔があるとしたら、それだけだ……。




「行ってらっしゃいませ」


廣瀬さんと一緒に玄関先で見送った。
新婚らしいキスも何もない別れ。


「今夜も帰れたら帰るから」


遅くなっても…と言い残すと背中を向けて出て行く……。



(さよなら、黒沢さん)


行ってらっしゃいの代わりに胸の中で別れを告げた。
その後はこっそり家から出る準備を始めた……。


< 151 / 283 >

この作品をシェア

pagetop