あなたの心を❤️で満たして
懐かしい家の桜の木を思い出し、ジワ…と目頭が熱くなった。


「留衣様?どうかしましたか?」


涙ぐんでいる私に驚き、廣瀬さんが腕を摩る。
どうもしません…と答えると、気持ちをお察しします…と言いだし、それに首を傾げるとこう足した。


「厚志様のお帰りが毎晩遅いから不安なんですよね」


「え…別にそうじゃ…」


「あの朴念仁、本当に研究一筋の馬鹿者ですからね」


酷い言い草だな…と思いつつ、まあ確かにそうだけど…と納得もする。

けれど、その朴念仁と会うのも今朝が最後なんだ。
家を出たら、その顔ももう見ないーーー。


私は気を強く持とうと決めて廣瀬さんに違いますよ…と言った。それからアイランドキッチンの中へ戻り、朝食の準備をし終える。

鍋を持って食事室に移動し、いつものようにのっそりと冬眠から目覚めたクマみたいに起きてくる黒沢さんを視界に入れて、昨夜のことを思い出したら、きゅん…と胸が軋んだ。



『心臓は要らないけど留衣は要るから』


あれが体だけの意味ではなく、存在そのものだったら良かった。そしたら、私は報われたのにーー。


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