あなたの心を❤️で満たして
敵を欺くには
『白沢薬品研究所』の看板が見えてきたのは、要塞屋敷を出てから小一時間後。

毎朝こんな遠くまで通っていたのかと感心しながら門を抜け、一番最初に見えてきた白い建物の前でタクシーは止まった。



「着きましたよ。お疲れ様でした」


運転手はそう言うと、後部座席のドアを開ける。
道中私がほぼ何も言わずに車窓ばかりを眺めていたからか、退屈ではありませんでしたか?と問われた。


「ちっとも。珍しくて楽しかったです」


街並みも人もカラフルで良かった。
いつも味気ない家の中に居たせいか、妙に新鮮な気分だった。


「お弁当を届けたら戻るので此処で待っていて下さい」


流石に小一時間もかけてあの家へ戻るのは難しい。
運転手は快く了解してくれて、私は安心してタクシーを降りた。


白い建物に続く階段を上り、自動ドアが開いた中へと入って行く。

薬品会社の建物だからきっと薬品臭がするのかと思えばそうでもなく、仄かにウッドチップの様な香りが漂っている。

ロビーの中は何処も丁寧に磨かれていて、如何にも清潔そうな雰囲気だ。
けれど、やはり何処か無機質で、あの要塞と同じだな…と思えた。


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