あなたの心を❤️で満たして
「いらっしゃいませ。ご面会ですか?」


ぼんやりと突っ立っていたら左手から声がした。
目を向けると事務員の様な服装をしている女性が微笑んでいる。
私は本来の目的を思い出して、その人の側へ近付いて行った。


「あの…私、此処の研究所で主任を務める黒沢厚志の妻なんですが…」


そう言うと受付嬢は驚いて、目を丸くしながら、えっ…と一言発する。


「すみませんけど、これを彼の元に届けて頂けませんか?夕食代わりのお弁当なんです」


重箱を包んだ風呂敷を見せると、受付嬢は「少しお待ち下さい」と言い、慌てて電話を掛けだす。

こっちはこれさえ受け取って頂ければいいと思っているのに、向こうはそうもいかない様子でーー。


「もしもし、黒沢様の奥様が面会にいらしてます。何方かお迎えに来て下さい」


いや、誰も迎えに来なくていいよ。さっさとこの建物から出して欲しい。


そう思うけれど、受付嬢は受話器を置くと満足そうな笑みを浮かべ、担当部署の者が参りますので…と言いだす。

面倒くさいことになったな…と考えながら会釈を返し、重箱を抱えたまま立ち尽くした。

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