あなたの心を❤️で満たして
黒沢さんは短く答えてソファから立った。
既に紅茶を飲みきっていて、その素早さに私は唖然とするばかり。


「俺は着替えてくるけど、君はどうする?」


「あ……私も行きます」


こんな広い家なのに、一人で此処に取り残されても困る。残りの紅茶を一気に飲み干し、私は廣瀬さんに「ご馳走さまでした」と伝えた。


「お坊っちゃま、少しは奥様のペースも考えて差し上げないと」


廣瀬さんは呆れ顔で黒沢さんを見て、私は彼女の発した一言に反応した。


「お坊っちゃま?」


聞き返すとソファから立ち上がっている彼が慌て、「そう呼ぶなと言ったのに」と責めている。


「あら、すみません。つい習慣で」


廣瀬さんは悪びれた様子もなく、私は二人のことを交互に眺めて首を傾げた。


「申し遅れましたが、私は厚志様のご実家でずっとハウスキーパーをしておりました。
それでこの度は厚志様がご結婚されると聞き、暫くの間、こちらでお二人のお世話をするように、とご主人様に頼まれましたので伺ったのです」


「小さい頃から俺を知ってるもんだから、いつまでも子供扱いで困るんだよ」


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