あなたの心を❤️で満たして
「ああ…それでお坊っちゃまと?」


「ほら廣瀬さん、すっかり彼女が真似てるだろ」


もう二度と言わないでくれよと念を押し、黒沢さんは照れくさそうな顔を私に向けて「行こう」と言った。


踵を返して歩き出す人の横顔が少しだけ赤く見え、ロボットみたいだと思っていた人が、ちゃんと人間なんだ…と実感した。


廣瀬さんを振り向くと彼女は私の視線に気づき、目を合わせてクスッと笑いながら肩を竦める。
 
私よりもはるかに彼のことをよく知ってそうな廣瀬さんが側に居て、とても頼もしく思えてきた。



「来ないの?」


ドアの前で黒沢さんが振り返る。
私は「行きます」と声を返し、廣瀬さんに会釈をして部屋を出た。


二人で廊下を歩きながら、少しだけこれからの生活が楽しめそうだなと思った。
まだ何も知らない彼だけれど、この人のことだけは嫌いにならないようにしたい。


(自分も嫌われないようにしよう……。黒沢厚志さん、どうか末永く宜しくお願いします)


胸の中で願った。
要塞みたいな家の中で、今が一番最初に心温まった瞬間だった……。


< 41 / 283 >

この作品をシェア

pagetop