月下花火
 明るいな……。


 足元に落ちた己の影を見つめ、男は小さく呟いた。
 今日は中秋の名月か。
 顔を上げれば、頭上には煌々と輝く丸い月がある。


 俺のこれからの行動を諫めるつもりか。


 罪を白日の下に曝す様に、月明かりは俺の姿を浮かび上がらせる。


 いいけどな。
 盗人じゃねぇし。


 顔を見られて困ることはない。
 見られたところで、逃げられなければいいだけの話だ。

 さわ、と少し涼しくなった風が吹いた。
 それに乗って、微かな足音が耳に届いた。

 前方に目を凝らすと、上背のある影が近付いてきている。
 俺はもたれていた柳の木から身を起こし、ゆらりと通りに出た。

 歩いてきた影が一瞬止まり、俺を見る。
 が、すぐに先と変わらず歩を進めた。

 前に怪しい人影があっても怯まない。
 己の腕に自信があるのだろう。
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