月下花火
「兄上は、まだ帰ってこないのかな」

 ぽつりとこぼす。
 詳しくは知らないが、お役目上夜帰らないこともある。
 こういう川沿いは辻斬りも多いし、いつ兄が凶刃に倒れるかわからない。

 だが私はあまり心配していない。
 兄は強いからだ。
 ただ帰りが遅いと寂しい。

 そう思ったとき、ふわりと血のにおいがしたような気がして、私はまた顔を上げた。


 気のせいだろうか。


 何気なく、先ほど不思議な星を見た辺りを眺めてみる。
 明るい月明かりを、そこだけがねっとりと拒んでいるような気がして、私は川に視線を落とした。

 ぽちゃんと魚が跳ね、水面に映った名月を、波紋が乱していった。



*****終*****
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