花びら




「わぁ…綺麗…」
「向こうに桜はないのか?」
「あるんだけど、こんな綺麗なのは初めて見たの!」

トランクケースを3つとキャリーバック2

つを乗せた車は、渋滞した大通りを走っていた。

荷物はすべて、車の助手席にちょこんと乗っている彼女のものだ。

日に当たったことのないような真っ白い肌、ぱっちりとした2重、リップが塗られた赤い唇、足首近くまである長いワンピースを着ている彼女は、おとぎ話から出てきたようだ。

「窓、開けてもいいかな?」
「いいよ。でも風が吹いたら、花びらが入ってくるから気をつけて。」

パッと見中学生や小学生にしか見えない童顔と背の持ち主だが、彼女は今年で高校生になる。

彼女は窓を開け、顔を少しだけ出す。

「歩兄」
「ん?」

運転席に座る、あゆにいと呼ばれた若い男性……風待歩(かぜまちあゆむ)は、身を乗り出す彼女……丸瀬心絆(まるせここ)に視線を向けた。

別に、心絆のことを好きなわけではない。
どことなく抜けていたり危なっかしいところを見ていると、目が離せないのだ。

まるで、妹ができたような感覚を歩は味わっていた。

弟は一人いるが、残念ながら可愛げがあまりない。

「あっ…」

強い風が吹いた。
地面に散ってしまった花びらが宙を舞う。

「綺麗…」

心絆の声が、空に透き通っていく。

桜色のカーテンが引かれたように、世界がピンク色に染まった。

「ほら、花びらついてるよ。」

歩が心絆の服を引っ張り、車の中に戻した。
心絆の髪や服についた桜が車の中に落ちていく。

「えへ、やっちゃった。」
「あとではらうんだよ?」
「はーい。」

車は、心絆が住むことになる、新しい家を目指していた。


< 2 / 5 >

この作品をシェア

pagetop