身代わりの姫
夜8時過ぎ、裏口に質素な馬車が来て、レオと乗り込もうとした時、エルザに抱きしめられた。
「アリア、あなたなら大丈夫。
帰りを待ってるわ、あなたの、家はここよ?
今日は、帰ってくるまで待ってるから……」
不安な気持ちを分かってくれている。
それでも、未知の世界に飛び込むような心細さは消えないが、少しだけこわばった顔が解けたような温かい笑みが浮かんだ。
「エルザ、ありがとう。行ってきます」
エルザの顔を見て、馬車へ乗り込んだ。
私が乗ると、馬車が動き出した。
暗い道を進み、着いたのは、王宮の正門でも裏口でもなかった。
王宮の西側の堀の横にある細い道を入るところで馬車を下りた。
堀に沿った小道を少し歩き、堀を渡る小さな橋を渡ったところにある、小さな木の門から入ると、王宮の壁がそびえていて、よく見るとその一部が木の扉になっている。
そこに兵士がいて、レオを見て頭を下げた。
「レオ様、私がご案内いたします。
どうぞ、お気をつけて」
木戸を開けると王宮の内部なのか階段がある。
その兵士と一緒に狭い階段を登る。
その階段も枝分かれしていて迷路のようであり、兵士に着いて行くしかなかった。
狭い階段である。ドレスでは動きにくい。
やっと、兵士が、どうぞ、と頭を下げて開けたドアを入ると背後でドアが閉まった。
そこは応接室のようなところだった。
「……ここは?」
「王宮の中だよ。間もなく王が来るから、このまま待っていよう」
立派な飾り棚には、お酒の瓶やグラスがきれいに並んでいる。
書棚には本が並び、奥の大きな窓側にはテーブルセットも置いてある。
ロウソクやランプが灯してあり、室内は明るい。
その時、私達が入ってきたドアとは違う、立派なドアの向こうで人が歩いて来る気配がして、レオとともに頭を深く下げた。