身代わりの姫



夜8時過ぎ、裏口に質素な馬車が来て、レオと乗り込もうとした時、エルザに抱きしめられた。


「アリア、あなたなら大丈夫。

帰りを待ってるわ、あなたの、家はここよ?

今日は、帰ってくるまで待ってるから……」


不安な気持ちを分かってくれている。

それでも、未知の世界に飛び込むような心細さは消えないが、少しだけこわばった顔が解けたような温かい笑みが浮かんだ。


「エルザ、ありがとう。行ってきます」


エルザの顔を見て、馬車へ乗り込んだ。


私が乗ると、馬車が動き出した。


暗い道を進み、着いたのは、王宮の正門でも裏口でもなかった。

王宮の西側の堀の横にある細い道を入るところで馬車を下りた。

堀に沿った小道を少し歩き、堀を渡る小さな橋を渡ったところにある、小さな木の門から入ると、王宮の壁がそびえていて、よく見るとその一部が木の扉になっている。


そこに兵士がいて、レオを見て頭を下げた。

「レオ様、私がご案内いたします。
どうぞ、お気をつけて」

木戸を開けると王宮の内部なのか階段がある。

その兵士と一緒に狭い階段を登る。

その階段も枝分かれしていて迷路のようであり、兵士に着いて行くしかなかった。

狭い階段である。ドレスでは動きにくい。


やっと、兵士が、どうぞ、と頭を下げて開けたドアを入ると背後でドアが閉まった。


そこは応接室のようなところだった。


「……ここは?」

「王宮の中だよ。間もなく王が来るから、このまま待っていよう」


立派な飾り棚には、お酒の瓶やグラスがきれいに並んでいる。

書棚には本が並び、奥の大きな窓側にはテーブルセットも置いてある。

ロウソクやランプが灯してあり、室内は明るい。


その時、私達が入ってきたドアとは違う、立派なドアの向こうで人が歩いて来る気配がして、レオとともに頭を深く下げた。




< 18 / 279 >

この作品をシェア

pagetop