身代わりの姫
船を見ていた筈が、海の緑だけが視界に映る。
誰?
声がした方を見て息を飲んだ。
「………シリル?」
隣に座ったシリルは微笑んでいた。
白いシャツと、黒のパンツ。
王宮にいるときの服装ではない。
「………久しぶりね」
「ああ、やっつけられて以来だな」
思い出したのか、笑いながら言った。
「……………どうしたの?」
「………シュリベルトに帰らないか?」
首を振った。
しばらく、心の奥を見透かすように、じっと見つめられた。
「……そうか……」
何も言わずシリルを見つめ返した。
私の好きだった人。
相変わらず、優しくて真面目な人柄だと分かる。
シリルが私から目を逸して海に視線を移してフと笑いながら言った。
「それなら、最後に、愚痴っておくよ。
あの後、叱られたよ、でも、コゼットが書簡箱を持っていたから、とりあえず国に帰った。
戦争がおわったときにジルベール王太子に妃は行方不明と連絡した。
ダリアン王太子とジルベール王太子の話し合いの中で、俺も呼ばれて話を、聞かれたよ。
そうは言っても、俺が負けた話しかなかったから、謝るしかなかったがな」
苦笑いをして、私を見た。
私が不意打ちで気絶させたのだ。
「俺は、お前の任務が王女の影武者だとすぐに、分かったよ。
でも、アリアが死んだと聞いて、急いで戻って、それがリリア様だとすぐに分かった。
アリアが、リリアとして結婚することも、俺は分かっていた。
シュリベルトに、帰らないか?
俺の妻として……」
まだ、想っていてくれたのか、と思ったが、それは、私がシュリベルトに帰りやすくする口実のような気がした。
「………嫌よ。帰らないわ。
私達は、今は愛し合っていないもの。
私は、私の道を来たから今ここにいるわ。
それだけよ。
でも、なぜ私がアリアだとわかったの?」
「ホクロ。お前は、耳の後の生え際にホクロがあるから」
苦笑いした。
「そっか。バレてたのね。
王家の皆さんはお元気?」
「ああ………姫に会えるのを待ってる。
レオとエルザも……な?」
懐かしい名前を聞いて、ホッとした。
「良かった……あの、今日のことは内緒に………してくれる?」
珍しくシリルが大笑いした。
「ハハ………俺が一人でお前をみつけたと思ってるのか?」
誰?
「じゃ、また会おう」
頭をポンポンと叩いて、呆然とする私を置いて、離れて行った。