冷徹社長の容赦ないご愛執
『今から出る』

「は、はい」

『部屋は?』

「三階の301号室です」

『わかった』


 思い立ったらすぐに行動に移す社長は、それだけを言い残して電話を切った。

 チェストの上の置時計を見ると、針は二十二時を過ぎた時刻を指していた。

 こんな夜更けにもかかわらず、コートを羽織り私の元へ来ようとしてくれている社長のそれは、私を想ってくれているからなんだろうか。

 そしてそれのどこを疑う余地があるんだろう。

 私の中に渦巻いている不安は、きっとここへやって来る社長によって消し去られるに違いない。

 そういう期待感を込めて、彼との距離を繋げてくれたスマホをぎゅっと握りしめた。



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