孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
『……佐織……』


 しばしの沈黙のあと、大きなため息を吐いた社長に、のぼせ上がる私は呆れられてしまったのかと落ち込む。


『お前の部屋、何号室?』


 しゅんとする私の顔を上げさせるのは、唐突な質問。


「え……」

『今から行く』

「えっ、今ですか……!?」

『そんな声聞かされたら、こんな離れたところにじっと座ってはいられない』


 ため息混じりに言う社長は、どこまでも私の胸をときめきであふれ返らせる。

 たとえそれがうぬぼれかもしれなくても、未来は不毛だったとしても、やっぱり信じたい気持ちのほうが大きい。


「あの、でも今ルイさんとご一緒では……」

『ルイのことなら気にすることはない』


 ルイさんと初めて会ったあの日、社長から言われたことを思い出した。

 不安に思うことがあるならちゃんと社長に伝えるべきだ。

 ルイさんを疑っているとかそういうことではなくて、私はやっぱり社長に仕えている身だから、彼に言われたことは素直に従うべきだと思ったから。
< 269 / 337 >

この作品をシェア

pagetop