上司な彼とルームシェア
大家さん、離れてください。
「蒔田さん、これお願いできるかな?午後イチで欲しいんだけど。」

大家さん、……いや、長谷川支部長補佐が書類の束を片手にやって来た。何故だか、私は支部長補佐の担当事務にされてしまった。

まさか、あの北支部で厳しい上司と噂されていた支部長様が大家さんだったとは。皆、恐れて事務の女の子たちは引いてしまってて、結局一番勤続の長い私が担当となったのだ。

「データがいいですか?書面に起こしますか?」

「両方できれば欲しいが」

「分かりました。会議14時からですよね?それまでにはお持ちします」

「あぁ、助かる。……由紀恵ちゃん、できる女だね、かっこいい」

「ーーっ」

後半は耳許で囁かれた。
何考えてんだっ、このオッサン!

赤面してるであろう顔を隠すように、俯いたままパソコンのキーを強く打ち付けるのであった。

っていうか、何処が厳しいの?全然噂と違うじゃん。
職場で耳許で囁くとか、本当距離感がおかしいから!!


結局、まともに集中できず、お昼もとることなく会議用の書類作りを会議開始ギリギリまですることとなった。

15時。まだ会議は続いてるようだ。支部長もあのオッサンも戻ってない。

「蒔田先輩、お疲れ様です」

3年後輩の橋田結実がコーヒーと一口サイズのチョコをデスクに置きながら、声をかけてきた。

「結実ちゃん、ありがとう」

「私、会議の3時間前にあんな束を持ってこられてもさばけませんよぉ。やっぱあの支部長補佐、噂通りの鬼ですねっ」

顎に手を当て、結実は一人で納得しているようだった。

「でも、必要な所だけライン引きしてくれてたからまとめるだけだったし。今回はグラフもなかったから」

「でも、先輩お昼抜きだったでしょ?やっぱヤツは鬼ですよ」

見た目がふわんと可愛いのに、ちょっと残念なこのキャラ。でもこのギャップに萌える男子もいるんだろうなぁ、と結実の姿を微笑ましく見ていた。

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