常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
大地の目が鋭くなる。
「……山田、おまえ、自分がしでかしたことわかってんのか?」
大地は敢えて静かに言った。
山田は、しまったとばかりに、ぶるっ、と震える。明らかに調子に乗り過ぎた。
「おまえ、顧客にちゃんとリスクヘッジ……危機を軽減するための措置を取っていたか?FXとかハイリスクの可能性のある商品に偏ってなかったか?」
山田は俯いて唇を噛みしめる。
FXとは、外国為替証拠金取引といって、円とドルを交換する際に発生する差益を利用した商品である。手軽にできるイメージだが、元本保証がないし、日々刻々と変わる為替相場に右往左往させられる。
「うちの課の顧客は一般投資家が中心だ。堅実な投資をベースにして、余力で投機的なものにチャレンジするようにしないと、末永くうちの会社と取り引きしてもらえないぞ」
「……できてませんでした。すみませんでした」
山田は頭を垂れた。
そのとき、事務職の制服を着たミディアムボブの女子社員が、営業二課の方に歩いてきた。
「課長……『あの人』が来ましたよ」
小田の言葉に大地が振り向く。
彼女が二階に上がってくると、やっぱり、フロア全体に緊張がみなぎる。
大地は「大奥の影の総元締め」と呼ばれる彼女を見た。