常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……伝票は面倒じゃないのか?」
と大地が訊く。
ほぼ他人にさせといて、どの口が言う?と亜湖は思ったが、心地よい低音で耳元で囁かれるとなにも言えない。
「面倒ですよ。課長が会議でおっしゃったように、わたしも電子化してペーパーレスにしてほしいです」
「おまえ、あの会議にいたのか?」
大地が驚く。席の配置を思い出そうとするが……
「下っ端ですからね。隅っこの机のさらに端にいました」
亜湖がふふっ、と笑う。
「意外だな。『大奥』は改革に反対かと思ってた」
「どうして反対なの?」
亜湖が大地の方に振り向いた。
「業務が軽減されるのに、反対なんてしないわ」
少し口を尖らせて言う。