常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

「朝比奈のパーティでおたくのお嬢さんを一目見たときから、私も紗香も気に入ってしまってね」

上條専務が目を細める。

「娘を連れて行ったのは、小学一年生のときの一回きりですよ。成長してずいぶん雰囲気も変わったし……」

田中常務の反論も虚しく、専務が被せるように言う。

「うちの紗香がそのパーティで、
『もし、うちに女の子が生まれていたら、あの子みたいな子だったと思う』
って言ってね。紗香は女の子をものすごくほしがっていたから」

すると、水島社長が膝を打って言った。

「なるほど……お嬢さんは母親似か?
うちの清香よりも他人のあっちゃんの方が、紗香ちゃんに似てるからなぁ」

あっちゃんとは田中常務の妻の敦子(あつこ)のことである。そして、水島社長の妻の清香と、上條専務の妻の紗香は姉妹である。
社内結婚した彼らはみんな、あさひ証券に入社したての頃、本店に配属されていた。

「それに、そのパーティで大地がおたくのお嬢さんを見て、たちまち夢中になったみたいでね。
お互い大人になった今、ぜひ再会させたいと思ってね」

上條専務の目がギラッと光を放つ。
まるで、獲物を見つけた肉食獣のようだ。
そういえば、専務は若い頃から狙った商談は必ず自分の思うままにしていたことを思い出した。

田中常務は背筋が寒くなって、ぶるっと奮う。

「あのパーティで君から『娘のおとうさんはおれ一人ですから』って言われたよな?
それなら、君の意志を尊重して、大地との結婚後は、私のことを『おとうさん』じゃなくて『パパ』って呼んでもらっても、別に構わないから。
紗香も『おかあさん』より『ママ』の方がうれしいかもなー」

……こいつ、なに妄想してやがるっ!?
絶対におまえの息子とは結婚させんっ!!


「……うちの慶人も、つまらん意地を張らないで、収まってくれりゃいいものを。
蓉子ちゃんと三年も同じ店内に配置してやってるのに、進展なしとは情けない」

水島社長が深いため息を吐く。

「来年、慶人が本社に復帰するのと同時に、蓉子ちゃんも本社の秘書室あたりに異動させたらどうだ?それとも、同じ部署に配属して蓉子ちゃんに慶人のアシスタントをさせるとか?」

上條専務が策士っぷりを披露する。

……こいつら、息子の結婚でやりたい放題だな。なんで、うちの娘がそれに巻き込まれにゃならんのだ⁉︎

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