マドンナブルー
間もなく、新しい美術教師が赴任してきた。美奈子は六月に女の子を出産した。その後、八月に十八歳の誕生日を迎えた杜と美奈子は、めでたく入籍した。梅田は、なんと東京藝術大学に現役合格した。咲羅は、自宅から電車で通える距離にある美大を受験し、合格した。奨学金で、授業料の一部をまかないながらの大学生活である。それでもバイトしながらの、忙しい毎日を送ることになるだろう。
安藤はどうしているのかと、咲羅はいつも彼を想った。実直な彼のことである。夢に向かって日々まい進しているに違いないが・・・・・・。
****
卒業式の日となった。式が終わり、生徒たちは、校庭で友人や教師との最後の別れを惜しんでいた。
校舎のそばに、大きな桜の木がある。膨れたつぼみは、今にも花弁を広げそうである。その悠然と枝を伸ばす姿を、咲羅は一人見上げていた。この時期は彼女にとって、もっとも大事なのである。亡くなった父がしのばれる上、安藤のことを、強く感じていた。
咲羅のそばに、梅田が音もなく現れた。彼も咲羅にならうように桜を見上げ、
「みんなばらばらで、さびしくなるな」
「うん・・・・・・」
咲羅は、木を見上げたまま、小さく返事した。
「俺はてっきり、咲羅も東京の大学を受験するんだと思ってた」
彼は名残惜しそうに言った。咲羅は彼に視線を当てた。
「東京は美大たくさんあるし、まあ、少しは考えたんだけどね。でも、やっぱり私は仙台が好きなんだ。この街から離れたくないなぁ、と思って」
「そっかあ。たまに俺が仙台に戻ってきたら、またみんなで騒ごうな」
「うん」
二人は反射的に杜を探した。制服の袖を目に当てて、おいおいと泣いている杜の姿を二人の目は見つけた。彼にとっての高校卒業は、人生の大きな転機である。名ばかりの結婚でなく、本格的に家庭を築いていくのだ。そのことを、教師から激励されているようだ。相変わらずの彼の激情っぷりは、見ていてほほえましい。咲羅と梅田はそろって笑い出した。
その後、咲羅は美術室に忘れ物をしていることに気づき、梅田と別れ、一人で校舎に入っていった。
美術室の前に来た。ドアの取っ手に指をかける。この瞬間、緊張と高揚が、いつもあった。それは安藤が去った後も続き、このときも、もちろんあった。咲羅は思いっきったようにドアを開いた。
・・・・・・暗がりが開け、まぶしさに、おもわず目を細めた。そして、ハッとした。窓際に、とても見慣れた大きな背中があった。
「先生!」
嬉しさと驚きで、興奮ぎみに叫んだ。しかし、次の瞬間、それはたんなる幻と気づいた。ただ、青い海だけが広がっていた。
咲羅は、窓際に歩いていった。いつも安藤がいた場所である。そしていつも彼がしていたように、窓の外に果てしなく広がる海を眺めた。明るい日光が海面に反射し、ダイヤモンドのように、キラキラと輝いていた。
安藤はどうしているのかと、咲羅はいつも彼を想った。実直な彼のことである。夢に向かって日々まい進しているに違いないが・・・・・・。
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卒業式の日となった。式が終わり、生徒たちは、校庭で友人や教師との最後の別れを惜しんでいた。
校舎のそばに、大きな桜の木がある。膨れたつぼみは、今にも花弁を広げそうである。その悠然と枝を伸ばす姿を、咲羅は一人見上げていた。この時期は彼女にとって、もっとも大事なのである。亡くなった父がしのばれる上、安藤のことを、強く感じていた。
咲羅のそばに、梅田が音もなく現れた。彼も咲羅にならうように桜を見上げ、
「みんなばらばらで、さびしくなるな」
「うん・・・・・・」
咲羅は、木を見上げたまま、小さく返事した。
「俺はてっきり、咲羅も東京の大学を受験するんだと思ってた」
彼は名残惜しそうに言った。咲羅は彼に視線を当てた。
「東京は美大たくさんあるし、まあ、少しは考えたんだけどね。でも、やっぱり私は仙台が好きなんだ。この街から離れたくないなぁ、と思って」
「そっかあ。たまに俺が仙台に戻ってきたら、またみんなで騒ごうな」
「うん」
二人は反射的に杜を探した。制服の袖を目に当てて、おいおいと泣いている杜の姿を二人の目は見つけた。彼にとっての高校卒業は、人生の大きな転機である。名ばかりの結婚でなく、本格的に家庭を築いていくのだ。そのことを、教師から激励されているようだ。相変わらずの彼の激情っぷりは、見ていてほほえましい。咲羅と梅田はそろって笑い出した。
その後、咲羅は美術室に忘れ物をしていることに気づき、梅田と別れ、一人で校舎に入っていった。
美術室の前に来た。ドアの取っ手に指をかける。この瞬間、緊張と高揚が、いつもあった。それは安藤が去った後も続き、このときも、もちろんあった。咲羅は思いっきったようにドアを開いた。
・・・・・・暗がりが開け、まぶしさに、おもわず目を細めた。そして、ハッとした。窓際に、とても見慣れた大きな背中があった。
「先生!」
嬉しさと驚きで、興奮ぎみに叫んだ。しかし、次の瞬間、それはたんなる幻と気づいた。ただ、青い海だけが広がっていた。
咲羅は、窓際に歩いていった。いつも安藤がいた場所である。そしていつも彼がしていたように、窓の外に果てしなく広がる海を眺めた。明るい日光が海面に反射し、ダイヤモンドのように、キラキラと輝いていた。
