溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
どうにかしてあげたい気持ちは募る。だけど力が比例しない。
やっぱり女二人ではどうにもならないのか……。これじゃただおばちゃんの体力を奪っていくだけ。威勢良く買って出たくせに、なにもできない自分が情けなくて、握りしめていたスコップがするりと手から離れる。
「もういいから、ね?」
そんな私にそう諭すように言うおばちゃん。なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだった。私が言い出さなかったらこんなに青白い顔させることもなかった。期待させずにすんだ。
「ごめん、おばちゃん」
泥で汚れた手で額の汗を拭う。するとその時、ガラッと勢いよく扉が開く音がした。
驚いて振り返ると、台風一過で容赦なく照りつける太陽の光と共に誰かが入ってきた。
「こんなところで油売ってたのか、西沢」
そして聞き覚えのある声が届き、無意識に背筋が伸びる。
「給料から引くからな」
そう偉そうに言いながら中へと入ってきたのは、どういうわけか九条さん。もしかして……⁉︎
「連れ戻しに来たんですか!?」
「は?」
「す、すみませんでした! 無断でこんなこと。連絡し忘れていました。でも、あの、その……」
仕事中に無断で帰らないなんて怒られて当たり前だ。さすがに暴力はないだろうけど、強引に連れ戻されて、怒鳴られるんだろうな。想像しただけで恐ろしい。ダラダラと脂汗が止まらない。