隣人はヒモである【完】
「とぼけたって無駄だからね。昨日、男の子と二人で歩いてるの見たんだから」
「男の子?」
「うちの大学の子じゃないよね、背が高めで、んー、遠かったからあんまりわからなかったけど、かっこよかった気がする」
「昨日……?」
「彼氏でしょう、聞いてないよ私」
むっと少しだけ口を尖らせた芙美の言葉に、心当たりがあまりにもなさすぎて目が泳いだ。
彼氏? 昨日?
だけどあたしのその仕草を誤魔化しに捉えた芙美は、逃がさんとばかりにあたしをじっとりした視線で睨みつける。
あ、もしかして。
「るいくんのこと?」
「知らないけど」
「あ、そっか。違う違う、彼氏じゃないよ!」
昨日の自分の行動歴を辿って、ようやくそういえば昨日はるいくんに会った日だったことを思い出した。
あたしの身近にいる男の子といえば主に彼だけではあるものの、『彼氏』という立場には縁遠いポジションにいるため、すぐには思い浮かばなかった。
彼氏ではない、いわゆるセフレだと伝えたら、芙美はどんな表情をするだろうか。
潔癖な彼女のことだから、根掘り葉掘りあたしに尋ねた後で、軽蔑した表情をして一言二言なじってくるかもしれない。