隣人はヒモである【完】
口どころか鼻まですっぽりと塞がれたせいで呼吸できない。ただでさえそんなに高くない鼻が余計に潰れそうな程ものすごい力で押さえつけられている。
限界、の意を込めてレオさんの腕を数回タップすると、暴れるなよ、と低い声で脅しをかけた男の手があたしの口元から離れた。
けほ、と数回咳をしながら喉元を押さえたあたしを見下ろしながらも、レオさんはあたしが暴れだすんではないかと警戒しているのか、あたしの上にまたがったままだ。
いやどういう状況? ていうかどういうつもり?
10日ぶり? 2週間くらい経ったのか?
あの秋元さんの出張中、彼を泊めて以来の再会だった。こんな再会ってある?
衝撃を受けた割に、意外と冷静な自分にもびっくりしたけど、それ以上に、鼓動が早まった原因が急な登場自体にでなく、この男との再会にあることにびっくりした。
「……なんなんですか⁉」
「なんなのって、」
「殺す気ですか!」
「静かに」
また口を塞がれそうになって、反射的に身をよじった。
あたしに叫び暴れるつもりがないことが分かったのか、レオさんはのったりとした動きであたしの上からどいた。
そこで気付いたけど、この人お酒臭い。