隣人はヒモである【完】


こんなに酒癖が悪いの?


ていうか何? どうしたらいいの?


どうにか起こそうと強めに揺すったり頬を引っぱたいたりしてみたけれど、気持ちのよさそうな寝息を立てるばかりで瞼はちっとも開きそうになかった。


ていうか変に起こして、さっきみたいに襲い掛かられても困るし、何をするか分からない恐ろしさがあるので、起こすことは諦める。


隣人を呼んでこようかとも考えたけど、平日の朝10時、働いている人が家にいる時間じゃないよなあ。


午後から大学の講義があるけど、いつ起きるかも分からない男を家に置いては出かけられない。


引きずって隣の家に放り込むことを思いつき、彼の衣類のポケットを探したけど、カギは見当たらなかった。鞄らしきものも持っていない。


外で飲んで、どこかに忘れてきたのか? 大丈夫かなこの人。


ていうか、いくらお隣とはいえ、意識のない男の体ってのは重たく、とてもじゃないけど引きずって動かすのも難しそうだった。


とりあえずは玄関に放置するしかあたしに出来ることはないらしく、諦めてレオさんを無視することにした。


だけど不思議と、面倒に巻き込まれたとは思わなかった。


全然起きないのをいいことに、あたしは溜めていた皿洗いをしたり録画を流して、普段通りに過ごしながらも、たまに玄関に行き相変わらず清潔感のない長い前髪をかき分け、閉じた目を確認したりする。


本当は無理やり瞼を持ち上げて、瞳を何回か確認したりもしたけど、意識のない人間の目は、あの日見たものとは全然違うもので、少しがっかりした。


あたしは何を期待しているんだろう。


あの日見た彼の目に、自分が感動し、惹きつけられていたことをたった今自覚した。


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