朝焼けを前に、私は夕映えを見る。
プロローグ
心地よい柔らかな風が吹き、辺りの草花を揺らした。

太平洋に面した小籠作(こごめさく)峠の断崖には、一人の少年と少女が互いを見つめあっている。

華鳥風月というに相応しい情景を彩る草花が二人を囲み、水平線から太陽が上る。

その太陽の光が、日照とともに二人の横顔を赤く染める。

癖毛のたった漆黒の髪を風になびかせた少年は、ただ目の前に立ち尽くす少女の瞳を覗き込むように見つめる。

少女の群青色の鮮やかな髪と、水晶のように透き通った瞳は誰も寄せ付けないような独特の雰囲気をはなっている。

その瞳を少女は少年へ向け、眉をひそめながら筋の通った鼻に自分の手の甲を重ねる。

「俺……矢倉坂(やぐらざか)のことが好きなんだよ……!」

「!」

「お前の容姿もそうだけど……、優しいところとか、たまに見せる素振りとか、全部……。だから、付き合ってほしい!」

数秒、二人は日の出に照らされながら見つめ合う。

「どうして私なの?赤城(あかさか)さ、私のこと嫌いって言ってたじゃん。」

赤城と呼ばれた青年は顔をうつむけ、押し黙る。

「ねえ、言いたいことは分かるでしょ?私は赤城のことをふってんの。」

ぶらりと手を下に下ろし、登りかかった太陽に目を向ける。

「返事してよ。」

「………」

「分かってんでしょ。……」

「でも……お前…のこと………」

「分かんないんだってば……!『好き』とか『愛してる』とか……!なんで赤城がそんなこと言ってんのか分かんない……!どういう意味なの?好きってどういうこと!?」

少女___矢倉坂(やぐらざか) 未良(みら)は、大声をあげ取り乱す。

今まで溜め込んでいた想いを全てぶつけると、満足したように一息つき、数歩後ずさる。

拍子に数輪の花を潰してしい、見つめると悔しそうに顔をクシャクシャに歪ませる。

「ほらぁ、言えないでしょ!?結局そうじゃん!みんなそうだった、私に本当の意味を教えてくれない!」

潰れた花を見つめながら無我夢中で叫ぶ。

少年___赤城 亜真也(あまや)はその姿をただの呆然と見つめ、何かを口走ろうとするが、未良の気迫に押され、口を閉じる。

「でもさ、結局みんなが愛してくれるのは、私のこの地位と容姿でしょ?」

「矢倉坂……!俺は__」

「私は花なの。この峠に咲いているような一輪の花。花は枯れるまでは美しいけど、枯れたてしまったら何の価値もない。ましてやこれみたい途中で潰れてしまったら元も子も無いでしょ?」


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