ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】



「厨房!?」

発信場所をすぐに特定した男の従業員が、走りながら、さらに奥へとつながる暖簾をくぐる。

どさくさにまぎれ、僕も厨房の中をのぞきこんだ。

――シ゛ュウゥーーーッ。

それはまるで、焼け石に水をかけているような音。

「うわ゛あぁっ!」

先陣をきった男は、まっ青な顔をして言う。

「し、知らない男がフライヤーに……」

……フライヤー?

そう呼ばれるモノの正体を確かめるべく、僕は音のする方へ歩を進める。

ほのかな白い煙に、ゾッとする臭い。

ときおり、パンッとなにかが弾ける音もする。

……つ゛!?

「杉山さん!!」

僕が見たのは、大量の油が敷かれた厨房器具に、手足を浸からせる人間の姿。

白目を剥いて口から泡を噴き、それでも、高温の油の中から手足を出そうとしない。

僕はすぐさま、首を絞めるようにして杉山さんをフライヤーから引きずりおろした。

「救急車を!」

「…………」

「早く!!」

「……は、はい!」

店員ふたりは気が動転したように厨房から出ていき、気を失っている杉山さんと僕だけが残る。

どうにか応急処置を……と手立てを探すが、僕に救命の知識はないに等しい。

……心臓マッサージ。

唯一わかるそれをやってみるが、付け焼き刃の知識では、それこそ焼け石に水。

と、思いきや。

「ぁぁ゛、ッ」

「嘘!?」

杉山さんの意識が戻った。

「わかる? 僕だよ!」

「ぃ゛……」

苦しみ悶えながら、僕の顔を睨みつけて、なにかを言いたげな様子。

しっかり聞き取ろうと耳を近づけた。

すると……。

「クソやろう、お゛まえのせいだ……」

渾身の恨み節に余力を使い果たし、彼は首をガクリと落とす。

……僕の……せい? 

彼の命の灯火が消えかかり、目の前では憐みの炎が燃えさかっていた。



 
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