こけしの恋歌~コイウタ~
恋のはじまり
大学卒業後、派遣社員として働き初めて2ヶ月が経った頃。

定時の午後5時を過ぎると、徐々にフロアから人が減っていく。
ひとり減り、ふたり減り、結局私は最後のひとりになって、総務部のフロアにポツーンと取り残された。

今日は毎月1回ある役職者会議で、部長や課長はフロアに戻ってこない。

「はぁ~、なんで断れないんだろう」

デスクに突っ伏して呟いた。
ファイルを手に取り、また大きなため息が出てしまう。
いくらため息をついたところで、仕事は減っていかない。
とにかくやらなくちゃ!
軽く頬を叩いて気合いを入れる。
キーボードを叩くスピードが少しずつ速くなる。

「やっと半分…」

時計を見ると、もうすぐ午後7時になろうとしていた。
キーボードを叩く手を止め、バッグの中からアメを取りだし、口に入れる。

ふと、横目で隣の席を見る。
デスクの上はキレイに片づいている。
そこは私の一つ年上の派遣社員の席。
私にこの仕事を丸投げした張本人。

定時の30分前になって突然仕事をまわしてきた。
なんでも今日は合コンでどうしても残業は出来ないのだとか。
合コン相手が医者とか弁護士だとか言って、目を輝かせてたっけ。
そんなこと、私の知ったこっちゃない。



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