幸せの静寂
 その後、私は手術とリハビリを始め、学校には復帰した。だが、どれだけリハビリを頑張っても、バレーボールをすることは難しかった。そして、時は流れて中学校生活最後の試合である全中。私は、もう満足にバレーボールをすることはできないが、少しでも皆の役に立ちたいと思いベンチ入りをさせてもらった。今は、県予選の決勝。私たちは、後、5点差のところまで追い上げたが、相手チームはマッチポイント。
「・・っ私が、階段から落ちちゃったから・・・」
悔しかった。悲しかった。何も出来ない自分が腹立たしかった。
「南雲、出るなら今だが、出来れば俺はお前を出したくない。お前はどうしたい?」
私の隣に座っている林田(ハヤシダ)監督が苦し紛れに私に聞いた。
「……エースってチームを勝利に導くものですよね。ここで、出なかったら、私はエースじゃない。」
「そうか。…分かった。だが、少しでも危ないと思ったらすぐにさげるからな。」
「はい!」
「行ってこい‼」 
 サーブ1球目。
(コートに立つの、いつぶりかな…心臓がバクバク言ってる…でも、皆が助けを求めるように私を見てるんだから…ここで流れを切ってみせる!)
ホイッスルが鳴り、私はボールを宙へ上げた。そして、蝶のように舞い、蜂のようにさす。ボールを相手コートに強く叩きつけられた。
「やったぁぁ‼」
監督もベンチにいる子も喜んでおり、碧と未稀は少し笑った顔でこちらを見たが、真澄はずっと前を見ていた。
 サーブ2球目。
(よし、この調子!大丈夫、落ち着いて…)
ホイッスルが鳴り、ボールを宙へ上げて飛ぼうとすると、足に痛みが走った。
(痛っ…でも、ここで終わるわけには…いかない!)
打ったボールはわずかに軌道をそれ、相手コートに入ったか入っていないかのギリギリのところへ落ちた。審判が判断を下すまでが異様に長く感じた。ピーッ。ホイッスルが鳴った。そして___試合が終わった。
 
 私は、あの日の皆の顔を忘れたことがない。悔しさと悲しさに満ちたあの顔を。私は、ずっとチームが負けたのは自分のせいだと思っていた。そして、いつしか皆は私を恨んでいると思うようになってしまった。すると、それがトラウマとなり、人のいるところでバレーボールができなくなってしまった。



 そして、時は流れ、春が来た。私たちは別々の道を歩んだ。私は、電車で3駅の所にある菱川(ヒシカワ)高校へ。碧は電車で1時間ほどかかる私立・有翅(ユウシ)高校へ。未希はバスで30分ほどの所にある楊千(ヨウゼン)高校へ。そして、真澄は隣県に引っ越し、成南(セイナン)高校へと進学した。皆、言葉を交わさずに・・・



「_________それから私たちは今、皆が何をしているのかも分からないまま今に至っています。」私は、あの後泣きじゃくり、落ち着いたところで今までにあったことを全て話した。
「・・それは、辛かったな。・・南雲さんは今どうしたいんだ?」キャプテンが聞いてきた。
「私は・・また真澄たちに会って、ちゃんと話がしたいです。」
「そうか。でも、どうしようかな〜」
そう、ここで出てくる問題は一つしかない。どうやって、真澄達に会うかだ。そうやって皆が頭を悩ましていると、巫くんがふと思いついたように言った。
「有翅高校も楊千高校も成南高校もどこかで聞いたことのある名前だなと思ってたんですけど、どこも女子バレーボールの強豪校じゃありませんか?」
「え?そうなの?」私は、思わず聞き返した。
「あ、確かにそうだよ。有翅高校も楊千高校も成南高校も毎回のようにベスト4入りをしてる。」携帯で調べてくれた田中先生が言った。
「この県は、高校の数が多いから全国へは2校が出場できるんだ。だから、俺たちが全国へ行って、有翅高校と楊千高校がこの県の女子バレーボールの出場枠2校に入って、隣県の成南高校も出場枠に入れば・・皆で会えるってことだ!」
「成る程!・・でも、そんな奇跡みたいなこと起こりますかね?」と、私がキャプテンに聞くと、キャプテンは自信満々で答えた。
「大丈夫だよ。勝ちたくない選手はいないから。」
「それも、そうですね。」

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