幸せの静寂
 松雪くんの件が落ち着いた頃、いよいよ私達は春の高校バレー・春高の予選を一週間後に控えていた。

 そして、時は過ぎ予選当日。
「まずは、目の前の一勝に勝つぞっ!」
「おぉ‼」
キャプテンの掛け声により試合が始まった。
 私達は無事に一回戦・二回戦・三回戦と勝ち上がっていった。そして、決勝戦。全国大会に出場できるのは二枠であり、そのうちの一枠は阿多高校に決まった。
 残りの一枠を争う戦いが始まった。
 サーブをレシーブで上げてボールを繋ぎ、スパイカーが相手コートへ打つ。そして、スパイカーが打ったボールをブロックで止めたり、レシーブでまた繋ぐ。すなわち、バレーボールはボールを繋ぐ球技なのだ。自分のコートに落とさないよう、味方に繋ぎ、時には敵にも繋がさせる。
そうして、ボールを繋いだ方が勝つのだ。

試合終了のホイッスルが鳴った。激戦を制したのは、菱川高校だ。

「流石に、静かですね。」
「ハハ、皆、疲れてんだろ。」
決勝戦の帰り道、顧問の田中先生が運転をしているバスのなかは静かだった。 
(……ん?)
田中先生と吉柳先生の話し声で、少し目が覚めた私は、ぼやけた頭で耳を傾けた。
「今年は、阿多高校と戦えませんでしたね。」
「俺は戦いたくねーな。どうも、合わねーんだよ。自由奔放な俺らと、いかにも風紀委員をしてますっていうぐらいの安定感のある阿多高校とは…」
「ハハ、なるほど。でも、一回は勝ったことあるんでしょう?」
「まぁな。あのときはあいつがいたからなぁ…」
「あぁ、彼のことですか。」
私の、意識はそこで途切れた。
 次に目を覚ますと、すでに学校に着いていた。皆、眠たそうな目を擦りながら、バスを降りている。私も、バスを降り、体育館へと向かった。
 今回の試合後のミーティングは、皆が眠すぎたため、手短に済まされ、皆は早々に帰っていった。だが、私はバスのなかでの話が気になり、田中先生に聞いてみることにした。
「あの、田中先生。私、バスのなかで話を聞いてしまったんですけど、彼って誰なんですか?」
「彼?…あぁ!阿多高校に一度勝ったときにいた人のことですか?」
「多分、そうだと思います。」
「僕も、吉柳くんから聞いただけなんですけどね。彼の名前は國見(クニミ)英一(エイイチ)。空中戦の覇者と呼ばれていたほど強かったエースですよ。」
私は、そんなに強い人がいたのかと思い、驚いた。
「そんなに、強い人がいたんですね‼」
「えぇ。ほら、南雲さんも、もう疲れているんだし、今日は帰りなさい。」
「はい!ありがとうございました。」
スッキリした私は帰路へついたが、このとき私は眠くて聞き逃していた。田中先生の、語尾が過去形だったことを。

 「彼は、やっぱり、もうバレーボールができないんですかね。」
田中先生の声は、誰もいない、暗い体育館に吸い込まれた。


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