幸せの静寂
ー翌日ー
 足は学校に向かっているのに、意識は上の空だった。理由は明白だ。先日、まさかのまさかで猫田先輩のお付き合いをすることになったこと。猫田先輩は女性を好きになったこともあるし、ゲイではないのだが、好きになれば男も女も関係ないらしい。何とも、猫田先輩らしい。
 僕は、気付くと部活に行くために、部室で着替えているところだった。どうやら、朝から放課後の今までずっと上の空だったようだ。
(これは、想像以上にのろけすぎてるな。やばい…)
 いつもは、部活に参加するまでに先輩などに会うが、今日は誰一人として会わなかった。もしかしたら、自分が遅れているかもしれないと思い、急いで体育館へと向かった。
 「おめでとう!」
「…え?」
体育館へ入ると、皆、ニコニコしていた。
「え、あの…え?」
「よう!」
皆の後ろからひょこっと出てきたのは猫田先輩だった。
(まさか…)嫌な予感がした。
「やっと、猫田と付き合ったんだな。おめでと!」と、キャプテンが笑顔で話してきた。
(あー…猫田先輩が言ったんだな……)
僕は、その瞬間に何もかも諦めた。
「猫田先輩、皆に言ったんですか?」
「あぁ!バレーボール部、全員に!!」
当然のように、眩しすぎる笑顔で返事をされた。
(全員に……)
 僕は、ふと、1つ気になることができた。
「あの…さっき、やっとって言いましたよね。まさか、知ってたんですか?」
恐る恐る、キャプテンに聞くと、こちらも当然のように返事をされた。
「あぁ。でも、無理矢理に踏み込んでもっと関係が悪化したら悪いなぁと思ってな。まぁ、来栖だけは気づいてなかったみたいだけどな。」
(まじか…)
「あの、キャプテンは気持ち悪くないんですか?男同士って。」
「別に…お互いが幸せなのが一番だろ。」
「そうですね!」
 
 僕は、自然と笑みがこぼれた。こんな、僕を受け入れてくれて、笑顔で迎えてくれて。僕は、世界一の果報者だと思った。
(菱川高校に来て、良かった!
 残すは、春の高校バレー。絶対に、皆で行くんだ!全国大会へ!) 



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