再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
照明の配送依頼や案件の確認、航くんが持ち帰ってきた資料の仕分け作業をしている間に、定時が過ぎていた。
金曜日ともあって、オフィスに残っている同僚はいつもよりも少ない。
仕事が一段落してそろそろ帰ろうかと思ったとき、背後から声をかけられた。
振り向くとどことなく堅い表情をした永嶋さんがいて、発注ミスがあったこともあり不安になりながら私は立ち上がった。
「永嶋さん、お疲れ様です。あの、もしかして午前中の件で何かありましたか? すみません、ご迷惑お掛けして」
「いや、そうじゃないんだ。……午前中は手際よく確認とか発注をしてくれて助かったよ。その……一方的に怒鳴って悪かったな」
「……え?」
「それだけ言いたかったんだ。これからも梶原さんのアシスタントに期待してるから、よろしく頼むよ。じゃあ、お疲れ様」
「お疲れ様、です……。……え?」
永嶋さんはあっという間に去っていき、取り残された私はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
……もしかして、永嶋さんも責任を感じてくれていたってことかな……?
都合のいい考えをしているだけかもしれないけれど、それが真実なら報われたような気がして、私はホッと胸を撫で下ろした。
イスに座り、気持ちが少しだけ軽くなった気がしながらパソコンのファイルを閉じていたとき、航くんがオフィスに戻ってきた。
彼がすぐそこにいることに対してそわそわしてしまう気持ちを抑えながら彼の行動を気にしていると、彼はパソコンに向かった。
海外出張から戻ってきたばかりで疲れているはずだし、きっと時差ボケもあるはずなのに、まだ帰れないのかな……。
日本を離れている間は止めていた仕事や出張に関する作業など、やることが山積みなのかもしれないけれど、今日くらいは早く帰ってゆっくり休んでほしい。
私は鼓動が速度を増すのを感じながら、パソコンの電源が落ちたタイミングで彼に声をかけた。
「瀬戸さん」
「ん?」
「あの、今日はそろそろ帰りませんか? 出張から戻ってきてお疲れでしょうし、今日はゆっくり休んでください」
「わかった」
「えっ」
こんなにもあっさり頷いてくれるとは思わなくて、つい聞き返してしまう。
「何?」
「あっ、いえ。えっと、じゃあ、お疲れ様です」
「あぁ」
航くんってこんなに聞き分けよかったかなと思いながら帰り支度をしている間に、彼は「お疲れ様です」と同僚に言い、私よりも先にオフィスを出ていった。